フェルナンド・ボテロ ボテロ展 ふくよかな魔法

フランチェスカ・レオーネ・モリモトが今の宇宙のエナジーにチューニングできるアート&スポットをご紹介。今回はBunkamuraザ・ミュージアムの学芸員・岡田由里さんに伺いました。

Bunkamuraザ・ミュージアム

フェルナンド・ボテロ《小さな鳥》1988 年 ブロンズ 広島市現代美術館蔵フェルナンド・ボテロ《小さな鳥》1988 年 ブロンズ 広島市現代美術館蔵
今回お邪魔したBunkamuraザ・ミュージアムは渋谷のランドマーク的大型複合文化施設にあります。館内に入ると、賑やかな表通りとは別世界のアート空間が広がり、渋谷にいることを忘れてしまうほど。開催中の『ボテロ展』に合わせて現在は、地下1階のスパイン広場にフェルナンド・ボテロさんの彫刻作品が飾られています。
フェルナンド・ボテロ《モナ・リザの横顔》 2020年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《モナ・リザの横顔》 2020年 油彩/カンヴァス
フェルナンド・ボテロ《泣く女》 1949年 水彩/紙フェルナンド・ボテロ《泣く女》 1949年 水彩/紙
フランチェスカ

人も動物も果物も、全てをふくよかに描き続ける画家、フェルナンド・ボテロさん。『ボテロ展』に足を運ぶと、描かれたモチーフだけでなく、一つ一つの作品がとても大きいことに驚かされます。カラフルではちきれんばかりの姿に描かれた人物や静物は、ポジティブな印象を放つと同時に、風刺的なアイロニーも感じさせ、単純に「ふくよかでHappyで、ボディポジティブな絵画」というわけではないようです。

展覧会の解説によると、ボテロさんは1932年、南米コロンビアのメデジンに3人兄弟の次男として生まれ、幼少期に父が他界。子供の頃から絵が得意で、20歳の時に国民美術家サロンに出展して2等を受賞。その賞金でスペイン、パリ、イタリアとヨーロッパを巡り、特に初期ルネサンス絵画に魅了されて、熱心に研究した、と。

岡田さん
特に初期ルネサンス・クワトロチェントの画風に惚れこみました。ルネサンス美術――例えばミケランジェロの『最後の審判』もボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』も、人物の肉付きがよくて、体形がガッチリしていますが、ボテロさんの場合もそうしたルネサンス美術の描き方が根底にあり、対象をガッチリ描く基盤となりました。彼はその後メキシコに移り、先住民のアイデンティティや文化がふんだんに盛り込まれたメキシコ美術を研究。ここで作品が普遍的であるためには、自分のルーツが入っていないとダメだと思ったそうです。メキシコにはオルメカ文明、コロンビアにはサン・アグスティン考古遺跡に頭部の大きな石像がありますけれど、こうしたものも見て学ぶなかで、大きなものを表現することが当たり前になっていったのではないかと思います。
フェルナンド・ボテロ《楽器》 1998年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《楽器》 1998年 油彩/カンヴァス
岡田さん
そして、マンドリンをスケッチしていた24歳の時に、サウンドホールを点のように描いてみたら、周りが爆発するように感じられて、対象物の量感を膨らませる独自の手法――つまり、ふくよかな表現――にたどり着きます。ここで自分の求めている表現はこれだと、ぴんときたんですね。
フランチェスカ
ところが、ボテロさん曰く「私は太った人を描いてはいない。膨らんだ人間は官能性を与えるために膨らまされている。芸術は自然を変形、つまりデフォルメさせなければいけない。芸術はデフォルメだ。芸術で真に現実的なものは何もない」ですって。ほぉ、なるほど。
フェルナンド・ボテロ《オレンジ》 2008年 油彩/カンヴァス フェルナンド・ボテロ《オレンジ》 2008年 油彩/カンヴァス
岡田さん
彼の描いた果物を見てください。パンパンに膨れて腐る一歩手前の状態に見えますが、この段階は果物が一番おいしい時期。この円熟したセンシュアリティを、果物でも人間でも表現していらっしゃるのだと思います。このふくよかな表現は、ボテロさんのシグニチャ―と言えるでしょう。
フランチェスカ
確かに、エネルギーに満ちている感じがします。
岡田さん
はちきれんばかりで力があって、ポジティブな感じがしますね。彼の彫刻作品はその傾向がより強く、世界中で愛されています。
しかし、絵画作品にはシニカルな視点も入っていて、さまざまな権力を握っているカトリック教会の司祭の姿や、貧富の差がとても激しく、麻薬カルテルが発展していたり、カトリック教国ゆえにLGBTの人々が差別されやすいコロンビアの状況を思わせる作品もあります。ただ、彼の場合は憂うべき状況をジャッジするのではなく、表情の無いふくよかな人々を通して淡々と描いているところが印象的です。
フェルナンド・ボテロ《コロンビアの聖母》 1992年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《コロンビアの聖母》 1992年 油彩/カンヴァス
フランチェスカ
大汗をかいているように見える《コロンビアの聖母》は実は泣いています。しかし、健康優良児っぽいキリストと、手にした国旗の小ささ、聖母の無表情などがあいまって、哀しみと可笑しさが同居する作品に。
フェルナンド・ボテロ《バルコニーから落ちる女》 1994年 パステル/紙フェルナンド・ボテロ《バルコニーから落ちる女》 1994年 パステル/紙
フェルナンド・ボテロ《象》 2007年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《象》 2007年 油彩/カンヴァス
フランチェスカ
「現実は時に強烈すぎるから、ある意味で描くことは愛の行為です。描くことを通して憎しみは愛に変わります。私は自分に忠実であることによって、自国にも忠実であることができました。私は国民に何か役立つことをしたいと思っています。人々の気持ちを誰かが代弁しなければなりません。絵で語ることは私の義務なのです」とは、ボテロさんの言葉。そこには戦わずして戦う反骨精神が感じられます。
フェルナンド・ボテロ《通り》 2000年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《通り》 2000年 油彩/カンヴァス
フェルナンド・ボテロ《踊る人たち》 2002年 パステル/紙フェルナンド・ボテロ《踊る人たち》 2002年 パステル/紙
フランチェスカ
実は、ボテロさんは5/11から木星が滞在している牡羊座の生まれ。太陽、火星、水星、天王星が同星座に揃う「牡羊座の中の牡羊座」です。「I am」をキーワードに持つ牡羊座は、「私は私」と自分らしくあることに躊躇がありません。そして誰に忖度するわけでもなく、シンプルに自分が信じたことを実行する強さを持ちます。
フェルナンド・ボテロ《黄色の花》( 3 点組) 2006年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《黄色の花》( 3 点組) 2006年 油彩/カンヴァス
フェルナンド・ボテロ《青の花》( 3 点組) 2006年 油彩/カンヴァスフェルナンド・ボテロ《青の花》( 3 点組) 2006年 油彩/カンヴァス
フランチェスカ
抽象芸術が世界を席巻していた時代に具象表現で自分のスタイルを極め、90歳を超えた今も精力的に制作を続けているボテロさん。その作品には自分自身にしっかり立脚して、真っすぐ進む強さがあふれていました。
構成|KAORU
展覧会情報
ボテロ展 ふくよかな魔法
ボテロ展 ふくよかな魔法
開催期間 2022年7月3日(日)まで
会場 Bunkamura ザ・ミュージアム 渋谷区道玄坂2‐24‐1 B1F
観覧料金 一般1,800円
公式サイト https://www.ntv.co.jp/botero2022/
開館時間 10:00〜18:00(⾦・土曜は21:00まで)
※⼊館は閉館の30分前まで。
※会期中の全ての土日は[オンラインによる入館日時予約]が必要。
休館日 会期中無休
巡回展 名古屋市美術館(7月16日~9月25日)、
京都市京セラ美術館(10月8日~12月11日)
コロンビア出身で現代を代表する美術家の一人、フェルナンド・ボテロ。あらゆる対象をふくよかに色鮮やかに描く表現で1950年代後半から欧米で高く評価され、世界中に多くのファンを持つ同氏の大規模な展覧会。初期から近年の作品まで、ご本人が選んだ油彩画、水彩画、素描など約70点が並びます。
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